はじめに
360°動画やVRといった言葉や技術が、多くの人々にとってなじみやすいものになってきたのは、ここ1,2年のことです。
しかし、VRの概念自体は、非常に起源の古いものだと言われています。
そこで、ここでは、VRがどのようなアイディアや技術のもとに発展してきたものなのかということを、簡単にご紹介したいと思います。
VR(=Virtual Reality)という言葉のはじまり
VR(=Virtual Reality)という言葉は、もともとは、1989年にアメリカの企業であるVPL Research(一般大衆向けに、ビジュアルプログラミング言語などを開発・提供していた会社だそうです!)が
・Eyephone(現在のヘッドマウントディスプレイのようなもの、頭の動きをトラッキングできる)
・データグローブ(手の動きをトラッキングできる・システム入力装置として機能する)
・データスーツ(体の動きをトラッキングできる)
などの、架空の空間を体験するためのデバイスを、「Virtual Reality」という宣伝文句とともに売り出したことが始まりと言われています。
(VPL社のデータグローブとEyephone)
ただ、ヘッドマウントディスプレイなどのアイディアはもっと昔から存在しており、さらには、VRという言葉こそなかったものの、現実世界とは違ったバーチャル空間のようなものは、旧石器時代から存在していたとする見方もあります。
ラスコー洞窟の壁画は最古のVR?
VRの起源については諸説ありますが、人類史上一番古い「バーチャル空間」は、ラスコー洞窟の壁画だと言われています。
約1万8000年前(!!)のものだと考えられるこの壁画には、色鮮やかに馬や羊や牛が描かれておりますが、洞窟内部は非常に暗いため、火をともさなければ壁画をきちんと見ることができません。
そのため、お祭りや儀式などの「ハレ」の日に火を灯し、壁画をきちんと見える状態にすることで、現実世界とは違ったバーチャルな空間を演出する効果もあったのではないか、と考えられています。
絵画におけるパノラマ手法
次に、空間演出や「バーチャル」表現の起源については、中世までさかのぼると、絵画にその端を見ることができます。
18世紀から19世紀にかけて絵画の手法が発達していく中で、イギリスの画家ロバート・バーカーが「パノラマ」という表現手法を始めました。
バーカーは、エジンバラやスコットランドの景色を、とーっても横長の矩形に描き、それをぐるっと筒状に丸めて展示することで、観客が風景を目の当たりにしているかのような表現を編み出し、「パノラマ」と命名しました。
非常に人気を博したこのシリーズは、バーカーの絵画を見るための専用展示館を作るまでに至りました。
その展示館の構造は、絵画を見るために暗い通路を通らなければならない設計になっており、「暗闇から視界が開けると異国の風景が広がっている」、という体験を演出することで観客は仮想現実を感じることができたようです。
(展示風景)
参考URL:Panorama工房内「パノラマよもやま話 Vol.2」
VR黎明期の1960年代
1960年代は、コンピューターを用いたバーチャルリアリティ技術が様々な分野で登場しました。(このころはVRという言葉はありませんでした。)
「インタラクティブアート」という概念が誕生したのもこの時代です。
まず、究極のディスプレイとして、コンピューターグラフィックスの分野でHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が開発されました。
初期のHMDには利用者の頭の位置を把握する装置がくっついており、利用者が右を向けば右側にあるべき映像を、左を向けば左側にあるべき映像を見せることができたと言われています。
インタラクティブな映像表現を視聴するためのチャレンジが、このころから始まっていたことがわかります。
アミューズメントやゲームでは、「体感ゲーム」を開発する中で、インタラクティブな表現手法が出てきました。
たとえば、1963年に開発された「SENSORAMA」というゲームでは、バイク乗車を体験できるようになっており、シーンの展開に響や椅子の振動が対応したり、風景に合わせたにおいの提示などの仕組みが組み込まれていたりと、五感にアプローチする試みがなされています。
(SENSORAMAの画像)
1960年代はこのように、現実とは違う世界を表現するための技術や手法が、コンピューターを使って様々に模索されました。
VR発展期の1980年代
1980年代には、VR領域での技術開発が、一層すすみました。
「Virtual Reality」という言葉が出始めたのも、この時代です。
たとえば、航空・宇宙の領域では、ヘッドマウントディスプレイのディスプレイにコックピット内の電子機器の表示を行うなど、シミュレーションとしてVR技術を使うための 技術が開発されています。
あるいは、パソコンと人間のあり方を考える「ヒューマンインターフェース」の領域では、音声やジェスチャーでパソコンを操作できるような技術が開発され、システムと人間のインタラクションなあり方が模索されました。
ロボット工学では、「テレイグジスタンス」という、遠くにある情報を、近くで再現・操作できるような技術の開発が行われました。これらは、医療などの領域で応用されるようになっています。
まとめ
このように、VRは単独で発展してきたわけではなく、様々な分野で別々に培われた、アイディアや技術が、折り重なってできてきたものです。
技術の発展やそのルーツを俯瞰しながらたどることは、過去の試行錯誤の結果、何が可能になってきているのかを知ることができて、とても興味深いです。
こういった知識が、制作のアイディアのリソースになれば幸いです。
(担当:田中)