はじめに
これまでの動画制作において、「ズーム」をつかった演出は、被写体のディティールを見せることで印象付けたり(寄り・あるいはズームイン)、あるいは被写体との周囲の関係性を見せることで状況を説明したり(引き・あるいはズームアウト)するのに、有効な方法でした。
(参考動画:効果的なズームショットの映画シーン)
こういったズーム演出は、360°動画でもできるのでしょうか?
そもそも、360°の動画でズームするとは、どういうことでしょうか?
気になったので、すこしまとめてみたいと思います。
360°の実写映像は、複数の動画を貼り合わせて作る
360°の動画を実写撮影するときは、広角レンズのカメラ複数台で撮影した動画を貼り合わせて球形に構築していきます。一つ一つの撮影素材は矩形のフレームで収録されるため、カメラと被写体の位置を再現しつつ球形にしていく必要があります。
これは「スティッチ」と呼ばれる作業で、多くの360°の実写映像を編集する前の工程として設けられています。
そのため、スティッチ作業のあとに、ある被写体だけにカメラを近づける・離れるといったズームの演出をしてしまうと、一度「スティッチ」で構築した他のカメラとの位置情報が崩れ、映像を再度球体に構築することができなくなってしまいます。
360°動画の演出は「カメラ位置」が重要
では、360°動画制作の際に、演出効果として被写体に近づいたり、離れたりするためにはどのような方法を使えばよいのでしょうか?
原始的ではありますが、360°動画で「ズーム」演出を用いる際は、撮影時に物理的にカメラと被写体の距離を変化させることが必要となります。
被写体を大きく撮りたいときにはカメラを近づける、被写体を小さく撮りたいときにはカメラを遠ざけるという作業をしなければなりません。(もちろん、被写体が近づいたり離れたりしても同じ効果を得られます。この場合は、被写体が動く必然性をもった演出プランを考える必要がありそうです。)
ただし、被写体とカメラの距離が近すぎると、カメラ間の視野角が大幅に変わってしまい、スティッチができないほどのズレを生じさせてしまう場合があります。また、被写体があまりにカメラに近い距離にいると、視聴する際に強い圧迫感を感じることがあります。
また、360°ならではの効果として、カメラの高さを変えることで、被写体を印象付けたり、状況を俯瞰したりといった、ズームのような効果を出すことも可能ではないかと思います。
感想
今回は「ズーム」という過去の演出技法に着目して、360°カメラにおける演出の可能性について考えてみました。
参考記事を探そうと思っていろいろ調べてみたのですが、360°動画でのストーリーテリングに関しては、まだまだチャレンジが少ない印象を受け、未知の領域なんだなあ、と感じました。
とはいえ、視聴時に視点を変えることで、人によって物語の組み立て方が変わってくる、という360°カメラならではの視聴特性は、映像メディア全体を考えていくうえでヒントとなるアイディアをたくさん含んでいると思います。
そのため、こういった新しいカメラを使って物語性のある表現をしていくためには、演出のポイントや見せたいものを決め、ショットごとにテスト撮影しながらベストなアングルと手法を積み上げていくことが必要ではないでしょうか。
新しい技術と、過去に蓄積されてきた映像の話法が組み合わさった時に、どのような物語や作品が生まれるのか、とても興味があります。
私自身も今後、カメラの高さや被写体との距離について調べるために、また別記事で色々な撮影にチャレンジしてみたいと思います!
(担当:田中)