はじめに
映像におけるフレーミングの概念を更新し、まったく新しい視聴体験を可能にしたVR映像。
まだまだ視聴環境が整ったばかりで、コンテンツ制作においては試行錯誤の最中ですが、VRという新しい技術を使って意欲的な表現に取り組んでいるクリエーターは国内外にたくさんおり、日夜表現の手法を拡大しています。
そのようなVR作品を見て学ぶことができるイベントの一つに、各国で開催されている映画祭があります。
そこで今回は、VR部門のある、国際インディペンデント映画祭を5つご紹介したいと思います。
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1. サンダンス映画祭
1978年から毎年1月にアメリカのユタ州で開催されている、歴史のある映画祭です。
11日間にわたって続くこの映画祭は、約200本のインディペンデント作品中心のプログラムが組まれ、毎年数万人規模の観客が訪れています。配給担当者やタレントエージェントなどの映画関係者が注目する映画祭としても有名で、過去には、クエンティン・タランティーノやジム・ジャームッシュなどがこの映画祭で飛躍のチャンスをつかみました。
2017年度は、実験映像などの革新的な映像表現を対象とした「ニュー・フロンティア」部門に、20ものVR関連作品が出品され、話題を集めました。
出品できるVRコンテンツは「プロジェクトのインストールパッケージ、または360°ビデオファイルが10GBを超えないもの」とされており、長さに関する指定はありません。
2018年度の映画祭に出品する場合、締め切り日は、8月7日($40)、8月21日($60)、9月15日($80)と、3回設けられており、早いほど出品料を抑えることができます。
募集要項が日本語にも翻訳されており、大変便利です。(笑)
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2.トライベッカ映画祭
トライベッカは、マンハッタンで毎年4月に開催されている、インディペンデント作品を対象とした映画祭で、同時多発テロからの復興を目的として、2001年から始まりました。
受賞者は、次回作の資金援助などを受けることができます。
昨年(2016年度)から、これまでの部門に加え、「実験作品部門(EXPERIENTIAL WORK)」でVRやウェブメディアでの作品も募集も受付けるようになり、昨年はVRアニメスタジオであるPenroseが制作した『Allumette』(フランス語で「マッチ棒」)が注目を集めました。
今年度の開催が終わったばかりのため、まだ次期の公募情報が出ておりませんが、昨年度の募集スケジュールは、2016年9月6日(午前10:00)~2016年12月2日(午後6時)となっており、プロジェクト出品の際には$40が必要でした。
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3.ナッシュビル映画祭
アメリカ南部のテネシー州で毎年4月下旬に開催される、インディペンデント作品の映画祭です。開始が1969年と大変長い歴史があり、アメリカ南部では最大の映画祭として注目されています。
近年はVRと360°部門が設けられており、VR部門の出品は、HTC Vive、Oculus Rift、Gear VR、Google Cardboardのいずれかで再生できるコンテンツを、映画祭のクラウドドライブにアップロードする必要があります。(締め切り時点で最終の形式になっている必要はないそうですが、4月1日までには最終形式で提出する必要があります。)
こちらも開催直後のため、まだ来年度の応募要項は出ておりませんが、昨年の締切日および出品料は、7月31日($35)、9月30日($40)、11月30日($50)、翌年1月8日($70)でした。
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4.ファンタジア国際映画祭
こちらはカナダで1996年から7月下旬から8月にかけて開催されている、ジャンル映画を対象とした映画祭です。ジャンル別の映画祭としては北米最大規模といわれており、日本人受賞者も過去に多くいます。(ちなみに、中田秀夫監督の「リング」がハリウッドでリメイクされるきっかけとなった映画祭です。)
こちらはすでに応募期限が過ぎてしまいましたが、2017年から新たにVR部門が追加され、今年度の開催に出品する場合、締切日と出品料はそれぞれ、2月1日($40)、3月29日($50)、4月14日($55)、5月2日($60)となっていました。(USドル)
メディア形式は.MOV(Quick Time)が指定されていますが、コンテンツの長さに関する指定はありません。
そのほかのVR作品の募集規定としては、2015年6月1日以降に制作された作品であり、モントリオールが初演であること、などが挙げられています。
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5.レインダンス映画祭
最後にご紹介するのは、ロンドンで毎年9月下旬から10月にかけて開催されている、レインダンス映画祭。1993年に設立以後、優れたインディペンデント作品を数多く紹介してきました。セミナーやワークショップなどのプログラムも設けられ、様々な映画人の交流の場としても注目されています。近年は邦画の作品支援にも力を入れており、大森立嗣監督の「セトウツミ」や塚本晋也監督の「野火」なども上映されました。
「Virtural Reality」の部門では、優れた作品の紹介にとどまらず、トークセッションなどで制作者の交流の場が設けられています。
VR部門に出品する場合は、45分以内の作品をYouTubeにアップロードし、そのリンクを「Filmfreeway」上で共有する必要があります。
今年の開催に際しての作品の締め切りと出品料は、4月28日(£55)、5月19日(£70)、6月2日 (£100)、 6月9日(£150)となっており、応募結果は8月31日に通知されます。
まとめ
今後、VRという領域からどのようなコンテンツが生まれてくるのか、また、それらは従来の映像表現とどのように違うのか、まだまだ未知の部分がたくさんあります。
しかし、過去の映像表現が進歩してきたのと同じように、VRを使った映像制作においても、技術への関心と、コンテンツ制作への熱意が、素晴らしい作品を生み出す鍵となっていくのではないでしょうか。
今後も映画祭などを通じて、VR技術を使った素晴らしい作品が数多く発表されることを楽しみにしています。
(担当:田中)