音楽を視覚的に体験できるミュージックビデオ。最近ではYouTubeがVR動画の投稿に対応したことで、スマートフォンなどを通して、様々な360°MVを視聴することができるようになってきています。
音楽の世界観を、360°というこれまでにないスクリーンで表現するのは、まだまだそれほど一般的ではありません。とはいえ、現時点でもVRをつかった表現に様々なクリエイターがチャレンジし、画期的なMVを多数残してくれています。
そこで、今回は、演出効果や撮影方法の特色を読み解きながら、360°のMV作品を5つ紹介していきたいと思います。
カメラ固定型
安藤裕子「360(ぜんほうい)さらうんど」
カメラ固定型の360°映像で(個人的に)代表的だと思うのが、安藤裕子さんの、楽曲タイトルとリンクしたこちらのMV。緑で囲まれた風景の中で、動き回りながら歌う安藤さんを追いかけることができ、まるで自分も大草原にトリップしたような気持ちで、伸びやかな歌声を味わうことができます。
派手な演出はないものの、楽曲の雰囲気を拡張するような、丁寧で細やかなエフェクトが、随所で効果的に使われています。
BIGMAMA 「MUTOPIA」
厳密にいうと、途中のCGパートではカメラが移動している箇所があるのですが、実写部分は(おそらく)固定カメラで撮影されています。
廃墟のような空間(ゲームの中の風景ような不思議な場所!)に、突如メンバーが登場(というか降臨?)するところから、音楽がスタートします。
ノイズなど、エフェクトによるカットが効果的に使われ、固定カメラの撮影でも飽きさせない映像に仕上がっています。
途中、カメラがくるくると回る演出(こちら回りトラックといって通常はカメラが被写体の周りを移動して撮影するのですが、この場合はカメラ自体が回る撮影or編集技法が使われています)や、メンバー(被写体)の背景が次々と変わっていくような、MVの過去の演出も効果的に使用した、意欲的な360°MVです。
ドローン撮影
Awesome City Club 「Lullaby for TOKYO CITY」
渋谷の街の風景から始まるこのMVは、ラストシーンで360°撮影にドローンを組み合わせた撮影技法が採用されています。
途中、歌詞の和訳が東京の見慣れた街の風景に現れる部分は、シンプルな演出方法ながら、グッときてしまいます。また、映像の時間を加速・減速することで、実写の映像を使いながらも、浮遊感のある楽曲の世界観が見事に表現されています。
クライマックス、ドローンで撮影された、メンバーから遠ざかっていく映像が、東京という街で感じる孤独感を表現しているようで、とても切ないです。
実写映像の合成
Hello Sleepwalkers「ハーメルンはどのようにして笛を吹くのか」
全天球映像作家、渡邊徹氏を中心するチーム「渡邊課」とグラフィックデザイナーのサヤメタクミ氏が制作したこちらのMVは、詩的な楽曲の雰囲気を360°の映像で表現したもの。
大胆な色彩処理によって、新宿という街の持つ情報過密なイメージを拡張し、さらに実写素材の合成という画期的な手法を使うことで、グラフィカルで万華鏡のような美しい映像を作り出しています。
テキスト(歌詞)の出し方も動きのある作りになっており、さまざまな視覚効果を掛け合わせることで独特の世界観を構成している作品です。
フルCG
ThePBJ「Running Wild feat. VENIOR 」
こちらは、実写の映像素材を使わず、フルCGで作られた(気合の入った!)360°MV。CGを使うことで、ThePBJの疾走感のある楽曲を、直感的に味わうことのできるMVになっています。
(こちらは弊社で制作したPVですので、いつの日かTipsのなかで作業工程などをご紹介していきたいと思います!)
まだまだこのほかにも、素敵な360°MVはたくさんありますが、今回はその中から5つ選んでご紹介させていただきました。演出方法がまだまだ体系化されていない360°映像ですが、音楽の力を借りてさまざまな表現を試みた、チャレンジングで素敵な作品と出会えることを今後も楽しみにしています。
(担当:田中)